2023年10月25日5 分

なぜ女性は化粧や美容整形をするのか?

性内競争と美化

女性の性内競争(女性同士の競争)が及ぼす影響を調べた2021年の研究
男女比が低い(OSR)州や所得格差が大きい州(GINI)ほど美容外科に関する検索が多くなる(研究1)
同様に、男女比(OSR)が低い州や所得格差(GINI)が大きい州ほど認定形成外科医の割合が高い(研究2)
OSRが女性に偏っている(女性が多い)大学の女性は、OSRが男性に偏っている(男性が多い)大学の女性よりも自身の外見をより気にする(研究3)
同性との競争が激しい条件(同性の数が異性の数よりも多い)に割り当てられた女子大学生は同性との競争が激しくない条件(同性の数が異性の数よりも少ない)に割り当てられた女子大学生よりも外見に投資することを好む(研究4)
高競争条件(理想的な人を他の女性と奪い合う)に割り当てられた女子大学生は低競争条件(理想的な人を他の女性と奪い合う必要はない)に割り当てられた女子大学生よりも自身の外見により注目していた(研究5)
同様に、高競争条件の女子大学生は低競争条件の女子大学生よりも外見に関連する商品を好むようになった(研究6)

ジェンダーの講義を受けていた時のことでした。

ある女性が「女性は男性のために毎日長い時間をかけて化粧をしなければいけず、今では整形を希望する女性がどんどん増えている」と言いました。

確かに、女性は長い時間をかけて毎日化粧をしていることや、時には整形を行うことは否定できませんが、それは男性の"ため"なのでしょうか?

少なくとも、その日のディスカッションの内容では、男性が女性に化粧や整形を"強いている"という話でしたので、"男性のため"という言葉の意味は女性が心から望んで、化粧や整形をしているというポジティブな意味ではなく、半ば強制させられているというようなネガティブな意味という点で考えてみましょう。

では逆に、女性にとっての化粧や整形にあたるものを考えてみましょう。

例えば、男性が喧嘩をするのは女性のため(せい)でしょうか?

そうとは考えられません。

少なくとも、進化心理学における性内競争(同性同士の競争)の観点から考えると、男性が喧嘩をしたり、女性が化粧や整形を行うのは、単に異性から選ばれる為に同性と競い合っていると考える方が自然なのです。

女性の性内競争(女性同士の競争)が及ぼす影響を調べた2021年の研究を見てみましょう。

まず、研究1では男女比が低い(OSR)州や所得格差が大きい州(GINI)ほど美容外科に関する検索が多くなることがわかりました。

同様に、研究2では男女比(OSR)が低い州や所得格差(GINI)が大きい州ほど認定形成外科医の割合が高いことがわかりました。

研究3ではOSRが女性に偏っている(女性が多い)大学の女性は、OSRが男性に偏っている(男性が多い)大学の女性よりも自身の外見をより気にしました。

研究4では同性との競争が激しい条件(同性の数が異性の数よりも多い)に割り当てられた女子大学生は同性との競争が激しくない条件(同性の数が異性の数よりも少ない)に割り当てられた女子大学生よりも外見に投資することを好みました。

研究5では高競争条件(理想的な人を他の女性と奪い合う)に割り当てられた女子大学生は低競争条件(理想的な人を他の女性と奪い合う必要はない)に割り当てられた女子大学生よりも自身の外見により注目していました。

同様に、研究6では高競争条件の女子大学生は低競争条件の女子大学生よりも外見に関連する商品を好むようになりました。

つまり、女性が自身の身体的魅力に注意を払ったり、魅力を向上させる(化粧や整形をする)のは女性同士の競争によるものだということです。

もしかすると、気づいた方もいるかもしれませんが、研究1〜3と研究4〜6は少し異なる研究だと思いませんか?

研究3〜研究6では"条件"という言葉が繰り返し出てきます。

実は、研究1〜研究3は調査、研究4〜研究6は実験なのです。

ここで、簡単に調査と実験の違いを説明します。例えば、「人に感謝をする人は幸せ」という仮説を検証する方法について考えてみましょう。

調査では、人をたくさん集めて、「どれだけ人に感謝をするか」と「その人が幸せかどうか」を測定して、相関を見てみたり、統計的仮説検定を行ったりして比較します。

もちろん、これだけでも意義のある研究と言えますが、このような調査の場合だと、「どれだけ人に感謝をするか」以外の変数(例えば、個人の経済状況や育ちの環境など)が「その人が幸せかどうか」にどれだけ影響を与えるのかわかりません。

そこで登場するのが実験です。

「どれだけ人に感謝をするか」以外の変数(例えば、個人の経済状況や育ちの環境など)を統制する方法はないよね?と思う方もいるかもしれませんが、心理学の実験ではシンプルだけど非常に強力な統制方法があります。

それは、無作為割り付けとか無作為割り当て(random agginment)です。

簡単に言ってしまえば、比較したい条件に割り当てられる人を適当に決めるというものです。

例えば、500人を集めてきて、「1日3回人に感謝をしてもらう」群(実験群)と「なにもしてもらわない」群(統制群)に適当に割り振ります(サイコロを振ってもいいし、コイントスで決めてもいいです)。

そうすることで、実験者が統制しようとする変数(年齢や性別などの事前に聞く変数)以外の未知の変数(個人の経済状況や育ちの環境など事前に聞いていない変数)も統制することができます。

まぁ、実際にはそんな簡単にはいきませんが(サンプルが偏っていたり、少なかったりすると母集団を代表していない可能性もありますし、統計的な誤差の場合もあります。そもそもある仮説を検証する全ての研究が同じ結論を出すということはほとんどありません)、それでも心理学が人間の心という目には見えないものを扱う為に、科学的な実験手法や統計を使っているということがわかっていただけると幸いです(もちろん、進化心理学も同様の手法を用いて様々な仮説を検討するので、今の人々が〇〇の心理を持つのは、祖先の状況が△△だったからだーとずっと考えているわけではありません)。

参考文献:

Wang, X., Chen, H., Chen, Z., & Yang, Y. (2021). Women’s intrasexual competition results in beautification. Social Psychological and Personality Science, 12(5), 648-657.