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「貧しいから子どもは産めない」は本当か?

  • 執筆者の写真: 日本進化心理学IHAセンター
    日本進化心理学IHAセンター
  • 2024年1月10日
  • 読了時間: 3分

地域の質と生活史戦略


イングランドの8,660家族(the Millennium Cohort Study)を調査して、地域の質が生殖にどう影響するのか調べた2010年の研究
地域の質を10段階に分けて分析した結果、質が高い地域と比較して、質が低い地域では初産年齢が若く、出生体重が低く、母乳育児期間が短く、父親との同居は一般的ではないが、子どもの数は多かった
質が低い地域出身の子どもは5歳児時点の認知発達の評価が悪かった
生活史理論が予測するように、最も不利な環境にいる人々は明らかに速い戦略をとっている

「貧しいから子どもは産めない」はよく言われることですが、本当に貧しいと子どもは産めないのでしょうか?


この考え方に真っ向から異議を唱えているのは生活史理論です。


生活史理論では、人々は速い戦略か遅い戦略のどちらかをとると考えられています(この言い方は厳密ではありませんが、ひとまずそういう戦略の違いがあるということを覚えておいてください)。


速い戦略と遅い戦略について詳しく知りたい方はLife history strategyやLife history theoryなどで調べてみてください。


生活史理論が予測していることはたくさんありますが、出産に絡めてすごく簡単に言うと、速い戦略を持つ人々はたくさんの子どもを、それぞれの子どもにはあまり資源を投じず育てる一方、遅い戦略を持つ人々は少ない子どもにたくさんの資源を投じて育てます。


なぜこのような二分法(もちろん、ある特定の人々が生まれた瞬間から速い戦略か遅い戦略をとるわけではありませんが)が生じるかというと、子どもの質と量にトレードオフを仮定したりするからです(親の投資理論と密接に関係しています)。


そして、生活史理論では、環境が厳しいことが速い戦略と関連づけられているので、「貧しいから子どもは産めない」という冒頭の話と正反対のことを生活史理論は予測するわけです。


つまり、親の環境が厳しければ(貧しければ)、親は遅い戦略ではなく、速い戦略をとるようになり、多くの子どもを産むようになるというわけです。


さて、冒頭の話か生活史理論かどちらの言っていることがデータからは支持されるのでしょうか?


イングランドの8660家族(the Millennium Cohort Study)を調査して、地域の質が生殖にどう影響するのか調べた2010年の研究を見てみましょう。


この研究では、地域の質を10段階に分けて分析した結果、質が高い地域と比較して、質が低い地域では初産年齢が若く、出生体重が低く、母乳育児期間が短く、父親との同居は一般的ではないが、子どもの数は多かったということがわかりました。


これは、生活史理論が予測するように、最も不利な環境にいる人々は速い戦略をとっていることを明確に示しています。


また、質が低い地域出身の子どもは5歳児時点の認知発達の評価が悪かったということがわかりました。


結局のところ、親が投資できる資源(時間やお金など)は有限なので、子どもの量を重視するか、子どもの質を重視するかというトレードオフに悩み続けるわけです。


参考文献:


Nettle, D. (2010). Dying young and living fast: Variation in life history across English neighborhoods. Behavioral ecology, 21(2), 387-395.

 
 

*全ての記事は科学的な知見に基づくものであり、一部の人に不利になるような思想を助長させるものではありません。

*全ての記事の内容は新たな知見等により、多少の修正が必要な場合や正反対の見解が正しいとされる場合もあります。

​*全ての記事は正確さの担保の為に、出来るだけ多くの引用や参考文献を紹介しますが、最終的な正確さの判断はご自身でなさってください。

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