1月11日3 分

芸術は苦しい?

芸術教育と精神障害

創造性が精神障害と関連するのかスウェーデンのデータベースを使って調べた2018年の研究
芸術的な科目を学ぶことは統合失調症、双極性障害、単極性うつ病を発症する確率の増加と関連しており、潜在的交絡因子を調整しても結果は変わらなかった

偉大な芸術家の逸話を耳にする際、芸術家自身の生涯や作品に隠された苦悩や深い葛藤が垣間見えることがあります。

芸術はただ美しい作品を生み出すだけではなく、創造の過程で芸術家自身が体験する心の苦痛を伴うものかもしれません。

さて、芸術を学ぶことは時として個人を苦しめてしまうのでしょうか?

創造性が精神障害と関連するのかスウェーデンのデータベースを使って調べた2018年の研究を見てみましょう。

この研究では、1973年〜2009年までに統合失調症、双極性障害、単極性うつ病と診断され入院したすべての患者が分析に含められました。

芸術的な科目は広義の定義と狭義の定義が用いられましたが、それぞれの詳しい科目について興味がある方は参考文献をご確認ください。

その結果、芸術的な科目を学ぶことは統合失調症、双極性障害、単極性うつ病を発症する確率の増加と関連していることがわかりました。

また、潜在的交絡因子を調整しても結果は変わらなかったという点も重要です。

こういう研究は、見方によっては一部の人に不快に映るかもしれません。

「では、芸術科目を若者に教えることは禁止すべきだ」なんて思う方もいるかもしれませんが、これは極端ではないでしょうか。

データはただ世界を記述しているだけです。調査を行った結果、実験を行った結果、ある変数と別の変数に関連が見られた。ただそれだけなのです。データが示す変数間の関連をどう社会に活かすか、活かさないかはあくまで私たち人間の勝手な解釈なのです。

スポーツをすれば(多かれ少なかれ)捻挫や骨折といった怪我で苦しむ可能性を高めるかもしれません。仮にスポーツと怪我の可能性がデータから示されたとしても、そのデータは変数間の関連を意味しているだけで、わたしたちがスポーツを積極的にするべきか、しないべきかというような解釈は一切与えてくれません。

(研究者の主観的な意見もあるかもしれませんが)データが示せるのは変数間の関連だけで、この研究ではただ創造性を高めることがなんらかの代償を伴うということを示唆しているだけなのです(だから芸術科目を教えるべきでないとか創造性を高めるべきでないというような議論は別の話なのです)。

そういう解釈をしてはいけないということではなく、ただデータは非難されるようなものではないということです。

参考文献:

MacCabe, J. H., Sariaslan, A., Almqvist, C., Lichtenstein, P., Larsson, H., & Kyaga, S. (2018). Artistic creativity and risk for schizophrenia, bipolar disorder and unipolar depression: A Swedish population-based case–control study and sib-pair analysis. The British Journal of Psychiatry, 212(6), 370-376.