1月11日4 分

なぜ世の中の問題は無くならない(ように思える)のか?

Prevalence-induced concept change

概念の事例がになると概念を拡大し始めること(prevalence-induced concept change)を示した2018年の研究
脅威的な顔の出現率が低下すると、以前は脅威的な顔と判断されなかった顔が脅威的な顔と判断される確率が高まった(研究6)
非倫理的な研究が少なくなると、以前は非倫理的だと評価されなかった研究が、非倫理的だと評価される確率が高まった(研究7)
prevalence-induced concept changeは顔の脅威性の判断や研究の倫理性の評価よりもさらに単純な概念(ドットの色判断)にも見られた
青色のドットの出現率が低下すると、以前は紫色と判断していたドットが青色と判断される確率が高まった(研究1)
青色のドットの出現率が確実に低下すると予告された場合でも(研究2)追加の指示や金銭的なインセンティブが与えられた場合でも(研究3)青色のドットの出現率が突然低下した場合でも(研究4)青色のドットの出現率が低下すると、以前は紫色と判断していたドットが青色と判断される確率が高まった
青色のドットの出現率が(低下する代わりに)増加した場合には以前は青色と判断していたドットが紫色と判断される確率が高まった(研究5)

世の中の問題は尽きないように感じ、日本はどんどん悪い方向へ向かっているようと感じる方はいないでしょうか?

芸能人の不倫やYouTuberや政治家の発言、企業の広告、SNSでの投稿など、近年では炎上の火種が色んなところに溢れています。

「コンプライアンス」という言葉は以前よりずいぶん身近になってきました。

(以前から問題であったこともあると思いますが)一昔前では問題でなかったことが、なぜ現代では問題視されることがあるのでしょうか?

「時代が変わった」と答えるのも良いかもしれませんが、せっかくであれば心理学的な観点から考えてみましょう。

2018年の研究では、概念の事例がになると概念を拡大し始めるというprevalence-induced concept changeという現象を7つの実験から明らかにしています。

研究1〜7までの手順を簡単に説明すると、参加者に(それぞれの研究に関連する)刺激を大量に評価してもらい、刺激の出現率が変化する場合に参加者の評価が変化するのか調べるものでした(参加者の評価が変化しなければ、参加者は出現率に影響されず、同じ刺激に同じ評価を与えたことになります)。

研究は1から進むのですが、本記事では研究6からご紹介します。

まず、研究6では、脅威的な顔の出現率が低下すると、以前は脅威的な顔と判断されなかった顔が脅威的な顔と判断される確率が高まるという結果が得られました。

また、研究7では非倫理的な研究が少なくなると、以前は非倫理的だと評価されなかった研究が、非倫理的だと評価される確率が高まることがわかりました。

稀な刺激は際立って見えるように変化したわけです。

(コンプライアンスを否定するわけではありませんが)現実場面に置き換えてみると、以前は問題でなかった現象(些細な発言や不倫など)が問題に見えることがあるということが研究6と7からは考えられるわけです(もちろん、以前から問題であった可能性も考えられます)。

研究1から5までが面白いのは、研究6や7で得られた結果(複雑な概念が以前の概念よりも拡大する)がさらに単純な概念でも見られたからです。

具体的には、研究1では青色のドットの出現率が低下すると、以前は紫色と判断していたドットが青色と判断される確率が高まることがわかりました。

「青色は青色、紫色は紫色に決まってる」というわけではなく、人間が色を判断する時には、その色がどれだけ稀かに影響されるわけです。

青色のドットの出現率が確実に低下すると予告された場合でも(研究2)追加の指示や金銭的なインセンティブが与えられた場合でも(研究3)青色のドットの出現率が突然低下した場合でも(研究4)青色のドットの出現率が低下すると、以前は紫色と判断していたドットが青色と判断される確率は高まりました。

Prevalence-induced concept changeは非常に頑健なわけです。

研究5では青色のドットの出現率が(低下する代わりに)増加した場合には以前は青色と判断していたドットが紫色と判断される確率が高まったことはPrevalence-induced concept changeが論理的に矛盾のない現象であることを示唆しています。

「昔に比べて日本は〇〇になった」や「〇〇をするなんて、当然おかしい」と考える時には、私たちに認知システムの機能を割り引いて考えないといけないかもしれません。

状況が改善すれば、次々と概念を拡大していき、問題を見つけ始めるのが人間なのです。

参考文献:

Levari, D. E., Gilbert, D. T., Wilson, T. D., Sievers, B., Amodio, D. M., & Wheatley, T. (2018). Prevalence-induced concept change in human judgment. Science, 360(6396), 1465-1467.