幼児と通行人
一方が道を譲らなければいけない状況に直面した時、幼児は道を譲られる方(地位の高い人)を好むが、力ずくで他者を押しのけて通る人は好まない
地位の高い人と良好な関係を築くということは幼児の生存に有利に働く可能性があるが、地位の高い人が暴力を振るう場合は、利益よりもコストが上回ってしまう可能性があるということ
一般的に考えると、社会的に地位の高い人と良い関係を築くことは、そうでない人と関係を築くよりも自己にとって有益だと考えることができます。
汚職事件がニュースなどで報道されると、私たちはどうしても権力者と懇意にしている人たちに対して怒りの矛先を向けがちですが、進化の歴史の中ではごく当たり前のことなのかもしれません。
2018年の研究では、(私たち大人だけでなく)幼児も社会的に地位の高い人を好むという実験結果を報告しています。
この実験では一方が道を譲らなければいけないという状況を作った時に、幼児は道を譲るほうか譲られる方か、どちらをより好むかが調べられました。
結果としては、幼児は道を譲られる方(地位の高い人)を好むが、力ずくで他者を押しのけて通る人は好まないということがわかりました。
祖先の環境を考えてみると、この結果には一貫性があると考えることができます。
つまり、地位の高い人と関係を築くということは幼児の生存に有利に働く可能性があるが、地位の高い人が暴力を振るう場合は、利益よりもコストが上回ってしまう可能性があるということです。
幼児は大人から暴力を振られると、生存確率が著しく減少するでしょう。
したがって、幼児は「他者より地位が高い大人と一緒にいると生存に役立つ」というメリットと「暴力を振るう可能性が高い大人と一緒にいると生存に不利になる」というコストの間で板挟みになる状況があるというわけです。
大人だけでなく幼児も地位の高い人には擦り寄るということは、その行為自体が適応的な行動である可能性が高いということを意味します。
この研究からわかることは、子どもに好かれたければ、「力」ではなく「徳」を積みましょうということです。
参考文献:
Thomas, A. J., Thomsen, L., Lukowski, A. F., Abramyan, M., & Sarnecka, B. W. (2018). Toddlers prefer those who win but not when they win by force. Nature human behaviour, 2(9), 662–669. https://doi.org/10.1038/s41562-018-0415-3