我々はなぜ嘘をつくのか
嘘をつくのは悪いこととは言い切れない
子どもが嘘をつく時、大人は口を揃えて「嘘をつくのは悪いこと」と教えます。
しかし、嘘って本当に悪いことなのでしょうか?
まず、子どもが嘘をつく時、それは成長の証でもあります。
なぜなら、子どもが意図的に嘘をつく時(現実と妄想を混同する嘘ではない)、自分と他人は別の心を持っているんだということを理解しなければなりません。
他人と自分は別々の心を持っていると理解する能力のことを心の理論と言います。
心の理論を持っているかは以下の実験から確かめることができます。
サリーとアン課題
1 サリーとアンが、部屋で一緒に遊んでいる。
2 サリーはボールを、かごの中に入れて部屋を出て行く。
3 サリーがいない間に、アンがボールを別の箱の中に移す。
4 サリーが部屋に戻ってくる。
被験者に「サリーはボールを取り出すためにどこを探しますか?」と聞く。
心の理論を持っていれば、「かごの中」と答えるが、心の理論を持っていなければ「箱の中」と答える。
心の理論は世界中で文化に関係なく4才頃から獲得すると考えられています。
つまり、嘘をつく能力(心の理論の出現)は子どもが順調に成長していることの表れです。
次に、嘘が悪いかどうか考えてみましょう。
倫理上は別としても、進化の上では嘘は適応的に機能してきたと言えるでしょう。
例えば、女性が化粧をする理由でも述べたように、女性は若さと美しさを偽り男性の気を惹こうとします。
正直に自分の魅力を伝えるだけでは、相手が見つからず遺伝子を残せないことも多いでしょう。
生物にとって繁殖に成功しないということは進化ゲームでの敗北を意味します。
さらに、集団サイズが増えてくるとさまざまなやりとりが生まれます。
他のメンバーを欺いたり、欺かれないようにしたりしなければなりません。
例を挙げると、コストを払わずに利益を得る裏切り者とそれを感知しようとする者のやりとりなどです。
チスイコウモリもどれだけ自分が利益を受けたかを記憶しており、それに基づいて他者を助けることがわかっています。
以上のことを考えると、我々人類は少なくとも嘘をついてきた祖先の生き残りなのでしょう。
参考文献;
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