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誰が性的関係の為に資源を交換し、誰が資源の為に性的関係を交換するのか?

資源と性的関係の交換の性差


資源と性的関係の交換が男女でどのように行われているのか調べた2008年の研究
前提:多くの種でメスはオスからの資源の提供と引き換えに交尾を行う
大学生を対象に「性的関係を得る為に相手に何かを約束したことがあるか」や「相手から何かを得る為に性的関係を約束したことがあるか」などを調査
自分から約束をする場合でも、相手から約束をされる場合でも、性差は明らかであった(男性は相手との性的関係の為に投資を、女性は相手からの投資の為に性的関係を交換する傾向があった)

男女は資源と性的関係を交換しているのでしょうか?


今回は、進化心理学者がどのように「男女は資源と性的関係を交換する」そして「その関係は非対称的である」と考えるに至るかを順を追って考えてみましょう。


まず、前提としてですが、多くの種でメスはオスからの資源の提供と引き換えに交尾を行います。


もちろん、生物種は非常に多く、例外もたくさんありますし、オスとメスの関係は一様ではありません。なので、ひとまずそういう種はたくさんいるくらいに覚えておきましょう。


重要なのは、オスとメスが資源と交尾を交換しているという対称的な関係ではなく、オスは資源を提供し、メスは交尾を提供するという非対称的な関係があるということです。


なぜ、「オスは交尾をメスに提供し、メスはオスに資源を提供する」という関係ではないのでしょうか?


進化生物学や進化心理学の面白いところは、男女の関係を分析する時に、それぞれの性にとって最適な戦略を考えるところです。


オスだけに有利な関係を考えたり、メスだけに有利な関係を考えるのではありません。


さて、話を戻すと、オスとメスの関係は市場原理に似ています。つまり、希少な性がより大きな交渉力を持つということです。


通常、希少な性はメスになります(実際には、sex role reversalを考慮したり、性比を考慮することにもなりますが、基本的には希少な性はメスだと言えます)。


なぜ希少な性がメスかというと、オスとメスの繁殖速度の違いが影響します(この説明は厳密ではありませんが、ひとまず参考程度にご理解ください)。


1回の繁殖にかかる時間を考えると、オスは短期間で多くの子孫を持つことができますが、メスはそのようにはいきません。


その結果、繁殖市場に(より多く)余っているのはメスとの交尾を待つオスで、オスは選り好みをせずにメスを求めるということになります(繁殖市場に余っているメスがいても、オスが選り好みをすれば、次のメスの到来までさらに待たなければなりません)。


一方、メスは繁殖市場から離脱する時間が長いので、これはメスがより良い形質を持つオスを選り好みするということに繋がります(より良い子孫を得る為に)。


したがって、オスはメスに選んでもらう為に資源を提供し、メスは簡単には交尾をせず資源を提供してくれるオスを選ぶようになるということです。


重要なので、何度も言いますが、「オスがメスを求めて資源を提供する程度を他のオスと競争しあい、メスがより良いオスを求めて資源を提供されることを望む」という関係は確かに多くの種で見られますが、その程度は種によって異なり、中にはこの関係が逆転している場合もあり(sex role reversal)、厳密なオスとメスの関係の説明や、この関係の進化的起源についてはAnisogamy、ベイトマンの原理、フィッシャーの原理、親の投資理論、性比(PSR、SSR、ASR、OSR)、潜在的繁殖速度など多くの要因を考慮しなければいけませんので、ここでは省略します(付け加えて、メスは資源を提供してくれるオスなら誰でも良いと言うわけではなく、遺伝的形質も考慮しなければいけませんがここまでの話で強調したいのは、オスとメスの関係の非対称性に関しては、資源を提供するか交尾を提供するかという関係になるということです)。


なにはともあれ、他の生物種と同じように、人間でも男性は資源を提供し、女性は性的関係を提供するのではないだろうか?と考えて大学生を対象に検討を行ったのが、Kruger (2008)の研究です。


実際の質問はもう少し長いのですが、大学生に「性的関係を得る為に相手に何かを約束したことがあるか」や「相手から何かを得る為に性的関係を約束したことがあるか」などを調査しました。


その結果、自分から約束をする場合でも、相手から約束をされる場合でも、性差は明らかでした。


つまり、男性は相手との性的関係の為に投資を、女性は相手からの投資の為に性的関係を交換する傾向にあったというわけです(統計的には交互作用が見られたということ)。


他の多くの種で見られるオスとメスの関係がヒトにも見られるということです。


もちろん、人間の関係はこんなに単純ではないことは当然ですが、進化心理学者は他の生物種でも見られる傾向が(程度や内容は違っても)人間にも見られるのではないか?ということを考えていたりするのです(体の構造や機能が人間だけに特別なものではなく、他の生物との連続性を考えるように、心理や行動にも他の生物との連続性を考えている)。


参考文献:


Kruger, D. J. (2008). Young adults attempt exchanges in reproductively relevant currencies. Evolutionary Psychology, 6(1), 147470490800600123.

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