経済成長と顕示的消費
顕示的消費(conspicuous consumption)が経済成長を生み出す要因の1つであることを指摘した論文(Collins, Baer, and Weber, 2015)
男性は自分の資質を示す為に正直なシグナルを女性に送り、女性はコストのかかる正直なシグナルを発する男性を選ぶ
この時に顕示的消費が正直なシグナルとなる為、顕示的消費を行う為の男性の労働が経済活動の増加をもたらす
経済成長を生み出す要因はなんなのでしょうか?
技術革新や生産性の向上?市場の効率性?政府の政策?
経済学の議論ではこのような要因が議論されるかもしれませんが、今回は少し違う見方をしてみましょう。
そもそも、なぜヒトは余分な富を生み出しているのでしょうか?
日々生きていく為には現代の狩猟採集民と同じような生活をしていても十分です。
工業化された生活をしなくても、毎日食べるだけの食べ物は手に入れることができます。
生活に必要な限度を超えてお金を稼いだり、生涯で使いきれないだけの富を稼ごうとすることが経済活動の一端を担っていることは直感的にも納得できるかもしれません。
顕示的消費(conspicuous consumption)について考えてみましょう。
ヴェブレン財(価格が高いほど価値が増すような財)のような高級な財はその価値を見せびらかす為に顕示的に消費されると考えられています。
Collins, Baer, and Weber (2015)ではこの顕示的消費がまさに経済成長を生み出すと指摘しています。
ここまでの話はもちろん進化心理学の理論などを用いずとも良いのですが、ここからは進化心理学の話です。
まず、Costly signaling theoryについて考えてみると、自分の資質を伝える為にはそのシグナルがコストがかかるもの(正直)でなければなりません。
そして配偶者選択(性選択)の文脈では(基本的には)男性がシグナルの送り手であり、女性がシグナルの受け手であるということがわかります。
例えば、体力があることを異性に示すことを考えてみましょう。
「体力があるよ!」とアピールする人はシグナルを送っていると考えられますが、受け手はそれを真実だと考えることができるでしょうか?
「体力があるよ!」は嘘をつくことができるので、シグナルとしては信頼性が低いと言えます。
一方、フルマラソンを走り切ったところを見れば、それは偽造が難しいので、(口で言うよりは)正直なシグナルと言えるかと思います。
つまり、シグナルの受け手はシグナルを送られるだけでなく、そのシグナルが送り手にとってコストがかかるものかが知りたいわけです。
また、配偶者選択(性選択)の文脈では女性の方が男性よりも配偶者の資質を気にする(選り好みをする)と言えますので、男性は自分の資質を示す為に正直なシグナルを女性に送り、女性はコストのかかる正直なシグナルを発する男性を選ぶということが言えるわけです。
また、この時に顕示的消費が正直なシグナルとなる為、顕示的消費を行う為の男性の労働が経済活動の増加をもたらすということです。
顕示的消費が正直なシグナルである必要のわかりやすい例には高級車や高級腕時計などが挙げられます。
例えば、男性がこれらの財を所有している時、男性がアピールしているのはこれらの財を実際に持っていることやそれだけ稼ぐ能力があるということになります。
ただ、高級車や高級腕時計は現在ではレンタルすることができたりします。
この場合、シグナルはコストがかかるわけでも正直なわけでもないので(実際に所有することに比べて)、こういったサービスを利用することはコストのかかるシグナリングの観点から見ると、女性に自身の質を伝えていることにはなりにくいのです(こういったサービスの存在を否定するわけでも、こういったサービスを利用してはいけないというわけでなく、あくまでもcostly signalingの観点では正直なシグナルとは言えないということです)。
(もちろん、女性の労働が経済成長を生み出さないと主張しているわけでは全くありませんが)男性が女性に選んでもらう為に、余分な富を生み出していく、そしてその生み出された富を使って顕示的消費が行われていくということが経済成長の要因の1つとして挙げられるのかもしれません。
参考文献:
Collins, J., Baer, B., & Weber, E. J. (2015). Sexual selection, conspicuous consumption and economic growth. Journal of Bioeconomics, 17, 189-206.
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