複雑な計算とシンプルな注視ヒューリスティック
注視ヒューリスティック:視線をボールに固定して走り出し、視線の角度が一定になるように走る速度を調整する
注視ヒューリスティックに頼れば、ボールの軌道を計算するために必要な全ての因果変数(初期距離,速度,角度,空気抵抗,風の速度と方向,スピンなど)を無視することができる
皆さんは飛んでくるボールの軌道計算をしたことはありますか?
聞いただけで頭が痛くなりそうな話ですが、野球選手はどのようにして飛んでくるボールをキャッチするのでしょうか?
ボールの軌道を計算するために必要な全ての因果変数(初期距離,速度,角度,空気抵抗,風の速度と方向,スピンなど)を考慮に入れて、毎度毎度飛んでくるボールをキャッチしているのでしょうか?
もちろん、そんなわけはありません。
実は、私たちヒトは注視ヒューリスティックを利用してボールをキャッチしています。
注視ヒューリスティックとは視線をボールに固定して走り出し、視線の角度が一定になるように走る速度を調整するということです。
注視ヒューリスティックに頼れば先程の変数全てを無視することができるという利点がありますので、限られた時間でかつ認知的負荷を大幅に減らしながらボールをキャッチすることができます。
確かに、ヒトを含めた生物はコンピュータのように膨大な量の計算を一瞬で行うことはできないかもしれませんが、私たちには進化が授けてくれたヒューリスティックという秘密兵器があるわけです。
参考文献:
McLeod, P., & Dienes, Z. (1996). Do fielders know where to go to catch the ball or only how to get there?. Journal of experimental psychology: human perception and performance, 22(3), 531.
Gigerenzer, G., & Gray, W. D. (2017). A simple heuristic successfully used by humans, animals, and machines: The story of the RAF and Luftwaffe, hawks and ducks, dogs and frisbees, baseball outfielders and sidewinder missiles-oh my!. Topics in Cognitive Science, 9(2), 260-263.
Gigerenzer, G., & Brighton, H. (2009). Homo heuristicus: Why biased minds make better inferences. Topics in cognitive science, 1(1), 107-143.